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超 クルマはかくして作られる (別冊CG)  福野礼一郎著 [3:音響関連]

「クルマはかくして作られる」の続編として登場した、クルマの部品の生産現場のルポ集。

部品の開発・生産の現場を通じて、日本の「ものづくり」の奥底にあるスピリッツを感じることができる良書だと思います。自分も材料の生産現場に関わっているので、工場の風景写真や綿密に取材されたノウハウのひとつひとつが面白く、何度読んでも飽きない一冊になっています。

「車と音楽には何の関係もないのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、実は音響の技術は車の快適化と密接な関係があります。

この「超クルマはかくして作られる」では、排気管メーカー「株式会社三五」が紹介されていますが、そこに出てくるのは複雑なマフラーを加工する技術と、排気音の消音化および快音化の技術。楽器音とは違った「音」の一面を感じることができます。


  

<ノート>

・イントロより
株式会社三五(さんご)実験部の音色評価室には高級オーディオシステムがでんと設置されていた。「排気音のデザイン」のために、ここで音色評価エンジニアの育成をしているのだという。音楽やさまざまな音を再生して周波数や音圧レベル、周波数分布などを聞き分ける訓練をする。

その評価室でフェラーリ456GTのエグゾーストノートの採録音を聴いた。

シャーン、シャーン、シャーン。

「そもそも音色とは音の何なのですか」
「ある周波数が強調された音のことです。すべての周波数で音圧を下げればそれが消音です」黒田修実験部長は間髪入れずに答えた。
「先ほど聴いたフェラーリの音、ではあの音はどこがどのように強調されてできた音色なのでしょう」
「爆発1次の周波数成分が顕著にでている音色ですね。回転が変わってもそれが持続するのが特徴です。吸気音も意図的に出しています。ついでに申しますとオルタネーターのファンの音ですね。オルタネーターのファン形状をうまくチューニングしてやるといいエンジン音になるんですよ(笑)」

YouTubeでフェラーリ456GTの音を探してみました。下の動画を再生すると、1分30秒あたりからエンジン音が聞けます。


・排気システム
排気温が高いと触媒の作動効率が上がるが、逆に消音するためには温度は低い方がよい。排気温度を200℃下げると、騒音が5~6dB低減される。


・排気系からの騒音
排気系からの騒音は2系統に分けられる。
①排気系吐出音
エンジンからの脈動圧力波と気流音(流速の速いガスが細いパイプ内を通過する際に発生する高周波音)
②排気系表面放射音
パイプやマフラーの壁を透過して出てくる透過音と排気脈動がマフラーを加振させて出す振動放射音。


・消音の原理
4つに分けられる。


①吸音:マフラー内にグラスウール、ロービングクール、バサルトウールなどの吸音材を入れ、排気エネルギーによってその細い繊維を振動させて中高周波の振動エネルギーを減衰させる(=消音)理屈である。したがって200Hz以下の低周波は消音できない。


②共鳴:レゾネーターと呼ぶ行き止まり式の部屋(共鳴室)をマフラー内に設け、エンジン側から来た排気のパイプを接続し、パイプ出口と共鳴室との空気の間で音波を行き来させながら、そのエネルギーを摩擦抵抗によって損耗させ消音する。共鳴消音は100Hz以下の低周波の消音に効果がある。


③拡張:パイプの断面積が急拡大する部位を設けておくと、排気ガスが拡張し、このとき音がマフラー内部の壁に反射してエネルギーを奪われ消音される。広い周波数の音が低減できるためマフラー内部では何度か繰り返して拡張消音を使うことがある。


④干渉:メカニカル型と電子式のふたつが考えられている。メカニカル型とは排気ガスの流路を二股に分岐させ、流路の長さの違いによって生じる音の位相差を利用して互いの騒音を干渉させ消音する方法。電子式はマフラー内部にスピーカーを設置し、排気音をマイクで拾って周波数と音圧を測定し、同音圧で逆位相の音をスピーカーから出して干渉消音する方式。


・株式会社三五(音色研究紹介)
http://www.sango.jp/japanese/products/sound/index.html


(2008/4/25記)

 


 

超クルマはかくして作られる (別冊CG)

超クルマはかくして作られる (別冊CG)

  • 作者: 福野 礼一郎
  • 出版社/メーカー: 二玄社
  • 発売日: 2003/01
  • メディア: 大型本

 

 


シリーズ第一巻の「クルマはかくして作られる」も中身の濃い一冊。ウッドパネルの生産でヤマハが紹介されています。

 

クルマはかくして作られる―いかにして自動車の部品は設計され生産されているのか (別冊CG)

クルマはかくして作られる―いかにして自動車の部品は設計され生産されているのか (別冊CG)

  • 作者: 福野 礼一郎
  • 出版社/メーカー: 二玄社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 大型本