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「スギ一般材からの高性能音響材料の製造」 京都府立大農学部 矢野浩之氏(1996年)  [1:演奏技術およびギター関連]

 

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ギター用の木材について、楽器用途として用いる際、どのような特性に優れているのか要因を抽出し、解析を行なった報告書。

ギターに適した材料の諸物性がまとめられており、理解しやすい内容です。

 

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【 目 次 】


 


<ノート>

・楽器材料にとって重要な音響特性

①密度(比重)
密度が小さいほど振れやすく、外部振動が伝わりやすい。
②ヤング率
③比ヤング率(E/γ):ヤング率を密度で除した値。
共振周波数fr(Hz)は、比ヤング率が大きいほど高くなる。
④内部摩擦(tanδ)
tanδの小さな材料は、外から与えられたエネルギーが材料中で熱エネルギーに変換されにくいため、放射音の減衰が遅く、共振がシャープで音響変換効率に優れる。周波数帯の広い複合音では、時間の経過にともなって高周波側から早く減衰し、低周波成分が優勢な音に変化する。
⑤ E/G値

ギター表板材料は、経験的にγ、E、tanδが小さい材料ほどギターの音量が大きくなる傾向がある。


・音の三要素
①大きさ
②高さ
③音色:音を周波数解析して得られる。音響スペクトルのピーク数、周波数、強度分布および各周波数の位相関係による特徴づけられる。
例:複雑な倍音構造を示す方が“豊かな音”。
  バイオリンでは、3~4kHzのレベルが高いと明るい音、低音のレベルが高いと暗い音になる。


・内部摩擦の周波数依存性
空隙率の高い低比重材では、共振周波数が低周波数側に移り、耳障りな高周波側での音響放射を抑制する。


・木の音響特性
木目に対して平行方向と垂直方向のヤング率比は10~20倍(針葉樹の場合)。広葉樹はこの値がより小さくなる。

木材は動的ヤング率が大きいものの、鋼やアルミにくらべて内部摩擦が大きい。木材は振れやすく振動応答は速いが、その割に振動吸収が大きい。アルミハニカム材もtanδが大きくなる。

木の細胞壁中のミクロフィブリルの配向が音響特性に影響する。フィブリル傾角が大きいと、動的ヤング率が小さく、tanδが大きい。トウヒ属はフィブリル傾角が最も小さい。→叩いた時の音が高くなるため、タッピングによる材料選別の目安となる。

木材は吸湿するとEが減少、tanδが増加する。


・ベイスギ(米杉)とトウヒの比較
米杉はトウヒよりtanδが小さい。これは心材成分(ポリフェノール系成分)の影響。マトリックス構成成分間の凝集力を高めている。ローズウッドも心材成分によりtanδが大きく減少している。


・カエデ材
カエデは放射組織によりtanδが大きい。バイオリンの裏板には好ましい材料。


・ブラジリアンローズウッドとインディアンローズウッドの比較
ブラジリアンはインディアンに比べて比重が10%ほど大きく、繊維方向のtanδが20%小さい。


・木材の化学処理
内部摩擦を低下させることを目的として、化学処理を行なった。木材細胞壁を主たる反応の場とし、木材構成成分間の凝集力を増大させる化学処理が有効である。(サリゲニン処理、ホルマール化処理)


・木材の積層化
繊維方向の比ヤング率の増大。
低密度の木材を芯材とし、高密度・高弾性の木材を表層に配置させてサンドイッチ状態にして材が有効。


・裏板木材と表板木材の違い
裏板は、表板に比べて以下の点が求められる。、
①比重が大きい。
②動的ヤング率が大きい。
③tanδは小さい。
このうち①と②は振動しにくい方向になる特性であるが、一度振動を与えられると振動エネルギーが吸収されにくい性質を持つ。


(2008/2/9記)


【この本は市販されておりません】