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音のなんでも小事典 日本音響学会編 [3:音響関連]

音に関してあらゆる項目が解説されている本。

音の基礎知識(音の物理、音の生理・心理)から楽音、音響機器まで扱われている範囲が広く、文章が分かっていることと分からないことが明確に区別されて記されているので、たいへん読みやすいです。

雑誌に載っているオーディオ評論家の文章を読んでいると、例えば「光ケーブルをプラスチック製から石英製に変えると音が良くなる」と書かれていて、読み手としては「デジタル信号なのに素材によって信号が変わるのか?」「具体的に信号波形はどう変化するのか?」「音が良くなるとはどういうメカニズムを考えているのか」といった疑問ばかり湧いてきて、読めば読むほどストレスがたまる一方でした。この本ではそういうストレスと無縁で、読後にスッキリしました。

「音響の基本が分かる本は何がいい?」と尋ねられたら真っ先に挙げたい一冊です。



<ノート>

・遮音性能
 一般に壁の遮音性能は、必ず低音域で悪く、高音域ほどよい。


・音の発生
振動する物体から音が発生する条件は、振動数(周波数)あるいは音の波長と、物体の大きさとの相対的な関係によって決まる。


・マスキング
ある音が別の音によって妨害され、聞き取りにくくなる現象。妨害音と目的音が同時に存在する場合および時間がずれている場合に生じる。例えば、大きな妨害音の直後には100ms程度のあいだマスキングが生じる。


・プロの声
男声においては、喉頭を下降させ、長くなった喉頭の部分で共鳴を起こさせている。共鳴によるホルマントは2400~3200Hz付近に現れる。アナウンサーの声はホルマントの移動がはっきりしている。普通の人は「音韻のなまけ現象」の影響で、ホルマントの移動がなまけたものになる。


・日本語と英語
アクセントをつける際、日本語では基本周波数を高くするが、英語では強弱でアクセントをつける。日本語では語りはじめのトーンが高く、終わりに向かって自然に低くなる。英語は主としてどの部分を強く発音するか、でアクセントをとる。


・音の高さ
音の高さには音色的な高さ(甲高さ)と、一オクターブごとにくるくると円を描く調性的な高さがある。後者は5000Hzを超えると判別が極めて難しくなる。


・純正律
現在の西洋音楽は平均律。純正律の三度音程や五度音程は美しく聞こえるが、「うなり」や「粗さ」がないので、「純粋すぎて物足りない」と感じる人たちも多いようだ。


・楽器の演奏
演奏家達は意識的にずれやゆらぎを加えることで、芸術的な演奏を完成させている。
例:弦楽四重奏で2台のヴァイオリン同時に同じ音を弾く場合、2音のずれは30~50ms程度。もっとずれが大きくなると2音が同時に鳴っていないように感じられ、逆にもっと小さいと2音が融合して1台のヴァイオリンの音に感じられてしまう。またヴァイオリン協奏曲の演奏において、ソロのヴァイオリン奏者は他の楽器よりわざと高めに演奏する。自分の音がオーケストラの中のたくさんのヴァイオリンの音の中に埋没しないための工夫。


・スピーカー
スピーカーは電気機器の中で極端に効率が低い。加えたエネルギーの約1%がやっと音のエネルギーに変換され、残りの99%は熱として消耗されてしまう。


・エレクトレット・コンデンサー・マイクロホン
1996年現在、世界で年間約5億本のマイクロホンが生産され、その99%以上がエレクトレット型であり、ほとんどすべてが日本の会社によって生産されている。


・聴力検査
簡易検査では1000Hzと4000Hzの純音を使う。もっと詳しく調べる場合、250、500、2000、8000Hzの純音を使う。


・難聴
音声の周波数帯において、若い人(18-24歳)の平均値より20デジベル以上、つまり音圧にして10倍以上強い音でないと聞き取れなくなった状態を難聴という。
騒音性難聴では、最初4kHz付近の聴力が低下し(この付近での聴覚の感度が最も高いためと考えられる)、さらに難聴が進むと高周波数側から聴力が低下する。


・ノイズの種類
①ホワイトノイズ
あわゆる周波数の成分をほぼ同量ずつ含む雑音。白色光がすべての波長の光を含むことにちなむ。
②ピンクノイズ(1/f雑音)
周波数に反比例して高い周波数の音ほど弱くなる雑音。周波数が低い音を波長が長い赤い光になぞらえて白色光より赤みがかかっていることの例え。


・振幅包絡(しんぷくほうらく)
振幅の変化に大局的に着目すると、ゆっくりとした変化の全体的な形を持っていることが分かる。これを振幅包絡という。この振幅包絡の違いが音色を大きく変えることがある。


・スペクトル包絡
周波数スペクトルの大局的な形。スペクトル包絡の山(ピーク)や谷(ディップ)はおとの聞こえ方を左右する重要な要素。グラフィックイコライザーは、このスペクトル包絡の変形によって、好みの音色へチューニングすることを目的としている。


・音の方向の認識
左右の耳に到達する音の位相差(時間差)と強度差が方向知覚の基本的な手がかりになる。

 

 (2009/4/29記)


音のなんでも小事典―脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで (ブルーバックス)

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/12
  • メディア: 新書