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クルマはかくして作られる 3 福野 礼一郎 著  [3:音響関連]

クルマの部材メーカーや生産現場を見て回ったルポの第3作。

音響関連では、防音材(日本特殊塗料/中外)と防振ゴム(東海ゴム工業)が取り上げられています。

防音材のページでは音の基礎から説明されていて、周波数と音圧の関係および騒音と周波数の関係のグラフが掲載されており、音響の基礎知識がなくても分かるように配慮されています。

これまでに出版されている二冊と合わせていずれもお勧めのシリーズです。

 


 

<ノート>

・防音材について
車には多くの制振・遮音・吸音材が使われている。
防音技術は以下の3つに分けられる。


 ①制振:固体伝播音を低下させる。
 ②遮音:音の通過を抑制する。
 ③吸音:音が吸音材の内部を通過する際に材の振動や摩擦によって振動エネルギーを熱エネルギーに変換する。

・吸収する音の振動領域
 -制振材:100-700Hzの低中周波で有効。
 -遮音材:~5000Hzくらいまでの中高周波域で有効。
 -吸音材:100-10kHzの広い範囲で有効。とりわけ高周波域に強い。

 ・遮音材中心の考え方から吸音材中心の防音対策へ
現在の車のトレンドは遮音材から吸音材に変化している。ただし、自動車防音技術はメーカーによって設計思想が異なる。例えばBMWは今でも遮音材一本であり、車内はゴムの遮音材で覆われ、吸音材は一切使っていない。理由として、ひとつはディーゼル車における防音性能を向上させるためと見られるが、会話明瞭度を重視しているからとも考えられるという。

防音対策の有効周波数域をみると、制振材はおよそ100~700Hz付近の低中周波で効果を発揮し、遮音材はその上の5000Hzくらいまでの中高周波域に強い。吸音材は1000~10KHzという広い範囲で性能を発揮するが、とりわけ高周波域に強い性質を持つ。しかしその周波数域には会話の声の成分も含まれているので、最適化をしない限り吸音材は会話の音の成分の一部も吸収してしまうため、吸音材を多用すると車内での会話の声が聞き取りにくいという傾向が出やすい。

レクサスLS460には遮音材、吸音材、制振材がフルに使われており、その重量はスリムな男性の体重ぐらいに達するという。(50~60kgぐらいか?)この値は遮音材のみで対応しているBMW7シリーズとおおよそ一致するらしい。クラウンはどちらかというと遮音中心の防音であるが、防音材全体の重量はレクサスの65%ほどだという。

・ゴムの物性
ゴムの最も重要な性質は「弾性」。ゴムの弾性は分子の熱運動に起因する。
ゴムを塑性変形させると、弾性エネルギーの一部は熱となって発散されるため、ゴムは温かくなる。また、そのため完全に元の姿に戻らない。このとき損失しない弾性エネルギーと損失するエネルギーの比をタンデルタ(tanδ)という。

 →「tanδ」に関しては、ギター用木材に適用して考察した論文があります。

「スギ一般材からの高性能音響材料の製造」 京都府立大農学部 矢野浩之氏(1996年)

 
(2009/5/19記)

 


 

クルマはかくして作られる 3 (3) (別冊CG)

クルマはかくして作られる 3 (3) (別冊CG)

  • 作者: 福野 礼一郎
  • 出版社/メーカー: 二玄社
  • 発売日: 2009/03
  • メディア: 大型本

 

 



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